6.私が男なら





「ひゃー、強いんやなあ! ひやひやしてもうたわ」
「ごめんね、こいつ天然だから。悪気はないから許してあげて」

構えていた細身の剣をだらりと下げてアントーニョがからから笑った。打ち合いが終わったのと同時に、傍で見ていたフランシスが木の根元に座っていたところをゆっくり立ち上がってこちらに向かってきた。細身の剣の打ち合いは、フランシスも大分強いらしい。彼が構えると、飾り気のない剣でも装飾品のようになるんだろうなと思った。
フランシスもアントーニョも大人と子供の間、ギルベルトと同じか少し上くらいの年齢に見えた。


大敗を期した例の戦い以後、わたしはどんな時でもギルベルトと一緒にすごしてきた。何度も調練を重ねて兵の練度を上げ、慌しい日々をすごして、気がついたら拠るべき地ができた。苦楽を共にしてきたわたし達には勢いがあった。そうした中で下っ端のわたしは、ギルベルトほど中枢にいるわけではないから何があったのか詳しくは分からないのだが、フランシスとアントーニョは味方になったのだという。いまのところ。本来ならば一兵卒であるわたし程度では会うことも適わないのだろうが、ギルベルトの計らいでこうして面識を持つことができた。
2人ともおもしろい人物だった。しかし、ギルベルトと同じような存在で、ギルベルトと同じくらいに成長をしているのだから、国としての力というのもきちんと持ち合わせているのだろう。利害の一致やそれに絡み合う様々な思惑からこうして手を取りあい、肩を並べ、くだらない事を言い合って笑うあやふやな関係なのは分かっていた。それでも、ギルベルトがたのしそうにしていたので、それはそれでよかったのかもしれないとそっと思っていた。



「で、どうだった?」

打ち合いで何か得たものはあったのかとギルベルトがたずねたので、わたしは答える。


「アントーニョみたいな戦い方ははじめて見た。すごく、面白かった」
「だろうな。1回お前と戦わせてみたかったんだ。興味持つだろうと思って」
「うん!」


ずっと昔からギルベルトと一緒に調練をしてきた。どうやらわたしは彼や他の兵が駆使する剣技には向いていないようだった。くせが強く、正規の軍で学ぶような技では持ち味が活かせないのだという。実戦ではとてもじゃないが使えないと言われ続けていたが、ギルベルトと個別の調練はずっと続けていた。







「なあ。は、なんで強くなりたいん?」


良い刺激を受けたとギルベルトに興奮気味に伝えていると、アントーニョが割って入ってきた。となりのフランシスも不思議そうにこちらの様子をうかがっている。


「あのさ、は女の子だよね。きみがそうまでして戦う必要ってあるのかな」



理解ができないというように2人に見つめられるが、わたしもそのような表情をしているだろう。ちらりとギルベルトの顔を覗き込んでみると、やはり同じように理解ができないとそこには書いてあった。わたしとギルベルトは向かい合って、表面のもっと奥にある互いの記憶だとかを探るようにそうしていた。



「女の子が軍にいるのってどうなの? 別に、差別とかそういうことを言いたいわけじゃないんだけどさ。それに、俺が言うと何か変な感じになっちゃうんだけど、あくまで興味本位っていうかね」
「うーん、実際に打ち合うてみて、戦うのが好きっていうよりか、純粋に強くなりたいっていう意思を感じたわ。ほんとのところはどうなん?」


剣の師であるギルベルトとそれらの問いにぴたりとあてはまる答えを探しあう様子は、最早にらみ合いだった。わたしのなかには漠然としたものしかなくて、それを言葉でコンパクトにまとめて伝えることは難しい。
考えることにも飽きて、わたしは目の前のギルベルトに聞いてみることにした。


「どうなの?」
「知らねえ」



すかさずフランシスとアントーニョが何かしらつっこんできたが、めぼしい答えが出るわけでもなく、4人で重そうに頭を傾げるばかりだった。