嵐のさき









それは音の嵐だった。




剣戟の響きがその場にはあふれていた。土煙が視界を狭くする。あたりに広がる血のにおい。ひいては、死は、己の足元に転がるように存在していた。もっとも、そんな死を拾い上げる気など毛ほどもない。



平穏にはまだ少しだけ遠い。小競り合いが続いていた。奥州を平定したとはいえ、政宗はまだ14でしかない。歳でしか彼を見ない愚かな輩があとを絶たなかった。






死角方向から振り下ろされる刃にも、慣れた。今ではそちら側からの攻撃は感覚で防ぐことができる。耳のあたりではじき、もう一方の木刀で相手のあごを強く打ちつけた。骨の砕ける感触。
少し遅れて浮いた相手が地面に落ちた。音がする。いちいち確認できる状況ではない。そちらも見ずに、政宗はすでに他の相手を3人ねじ伏せていた。

次から次へと相手は襲い掛かってくる。きりがないかのように思えた。




遠くの方で成実が鬨の声をあげていた。おされているわけでは、ない。


その声に味方の兵が活気付く。もともと苦しむような相手ではなかった。十分に味方がおしていた。このまま一気に揉んでいけば、勝てる。負けるような相手ではないのだ。政宗は不敵に笑んだ。




「政宗さま!!」




聞きなれた、護衛の声だった。痛切さを感じさせる、叫び声。
どうしたのだ、と上司としての余裕を持ってつづくはずの言葉は、飲み込まれた。


足元に転がりゆくのは、声を張り上げたのとは別の護衛兵だった。2人ほど倒れ、政宗はそこではじめて自分の状況を理解した。また1人、護衛が敵と政宗の間に入り込み、守ろうとしたがそれを果たすことなくその場に倒れた。



相手が剣を振りかぶった。










その時、空気の破裂する音がこだました。




目が覚めるような大きな音が何発か続けざまに聞こえて、急に懐かしい気持ちになった。
ばたりばたりと敵兵が倒れていく。政宗と、そのまわりの生き残った護衛兵たちが呆然と立ち尽くした。





「よお」

「ああ」


あんなにうるさかった音が、つかの間やわらいだ。
硝煙がゆらぐそこには、戦場にそぐわない深草色のコート。

自分に向けられた、懐かしい声。


「手を貸すぜ」
「いらぬ、おぬしの力を借りずとも勝てる戦だ」
「油断してると、さっきみたいなことになるぜ、総大将」



あんな別れ方をした自分を許してくれるのか、と政宗は聞けなかった。怖かった。
孫市は、許すからだ。許してほしくなかった。口汚く罵ってもらうほうがずっと楽だった。









嵐のさきには、変わりなく笑う孫市が立っていた。

胸が苦しかったが、配下の兵に綱元の救援に行くよう指示を出して、以前と同じように孫市とともに戦場を駆けた。孫市が勝手についてくるから、それ以上政宗は何も言わなかった。


背後を顧みずに駆ける戦場が、懐かしかった。