12.大したことじゃないから





季節の移り変わりと、北の女帝崩御の報。そうして苦しい戦いは幕を閉じた。


まだ国中が落ち着いてはいなかったが、今は文官の方が東奔西走している。王の直轄の兵である立場はまだ解任されていなかったが、わたしはいつものように宿舎ですごして軍の雑務をこなしていた。
そんな時に、本当の王の私兵がわたしを訪ねてきて、わたしは王の私室へと招かれた。


「勲章でも与えようか?」
「わたしは何も特別なことはしておりませんが」
「あくまでその姿勢を貫くつもりなのだね」


どうやらプロイセンという国は、強国へと数えられるほどになったらしい。荒れた大地を立て直すにはいくらか時間を要するかもしれないが、民の顔は疲れながらもどこか活気があるように見えた。こうして、それらを見れる日が来るのが何より嬉しかったから、これ以上は何もいらないと思っていた。

「そうだ。今度フランスで舞踏会があるからそれに出席したまえ」
「結構です」
「残念、これは命令だ。後日、正式な通達がしかるべき手順で君の元に届くよ」
「・・・・・・」


いずれ、わたしの立場も戦時中の特別措置のものから、本来の軍の下っ端へと戻るのだろう。王は、もう戦争に与することはないのだろう。そしてわたしもあのような形で参戦することはないのだろう。


「楽しんできたまえ」
「淑女の振舞い方など、わたしには出来かねます」
「そんなの簡単だよ。男に誘われたら笑顔で着いていって、股を開けばいい」
「・・・・・・」
「もちろん、冗談だがね」

王は、無邪気な子供っぽい表情で笑ってみせた。

「大丈夫、ギルベルトも出席するから、ずっとくっついているといい」
「はい」











騎馬ではなく、きれいなドレスに身を包んで馬車に乗る日がやってくるなんて思いもしなかった。向かいに座るギルベルトは、いつも通り堂々としている。

「お前のお守りなんてやってられっかよ。終わるまで目立たねぇように壁際にでも突っ立てろよ」
「う、うん。そうする」


まだ見ぬ別世界に悪い想像ばかり膨らんでいく。剣を扇に変えたところで、わたしの立ち居振る舞いがどうにかなるとは思えない。ましてや頼みの綱であるギルベルトからは、早々に見捨てられようとしている。

「親父もいろいろ考えてんだよ。先の戦は政略的に大敗したところからのスタートだったし、これからは孤立しないよう他国とのつながりを重要視するようにしたんだと。あと、女のお前がどうやったら喜ぶか親父なりに考えてくれたみてーだし、んなつまんねー顔すんなよ」
「うん」


一気にまくしたてて、ギルベルトは会場に着くまで寝ると告げて、腕を組んでその姿勢をとった。わたしも同じように着くまで眠ろうかと思ったけど、着慣れないドレスが呼吸を圧迫してそれどころではなかった。