スローモーションで駆けていく夜に





車中で音楽をかけるような趣味はない。それなのに、先ほどから運転している自分の横から、ささやかな歌のようなものが聞こえてきていた。そちらに注意を向けたら自分のプライドに負けてしまいそうな気がしたので、視線は前方の注意してしかるべき夜道をとらえていた。


集まってパーティをしようだとか、そういったことはしょっちゅうあって、集まる機会は少なくはない。フィンランドあたりは皆の親交が深まることを切に願っているが、それ以外のメンバーは自分も含めて他人に無関心だ。言い切ろうとしたが、自分がひとりをカウントし忘れていることに気がついた。

何に使うかは分からないが「木材が足りない」という事になって、それなら自分が遠くのホームセンターまで車を走らせようと言った。すると、「それなら人手が多い方がいい」ということになって、不本意ながらふたりでホームセンターへ行くことになった。仲は悪いが、ここで頑なに断ってしまえば、フィンランドやいっしょにきたシーランドが悲しそうな顔をすることが分かっていたから、不満をぐっと飲み込んだ。顔には出ていたと思うが。送り出す時は誰もが無言だった。




「おいスー。ちょっと車止めろ」

意識しないようにするのは、結局意識しているのと同じだった。唐突に話しかけられたことに驚いて急ブレーキをかけた。結果、彼の言葉通り停車したことになる。

「いでぇな」
「・・・急いでらんだども」
「それはわがってる。スー、ちょっと窓の外見てみれ」

道路の端に車を寄せると、デンマーク笑いながらが助手席側の窓を指差していた。言われるがままに身を乗り出して、真っ暗な景色のなかに何かを探す。


「何が・・・?」


デンマークの指が示す先には、何も見当たらなかった。ただ暗い海が寄せては帰っていくばかりで、目立ったものは何もない。


「おう。何もねぇど!」


そういつものように言ってけらっと笑うものだから、スウェーデンは皮膚の下で怒りが粟立つような感覚だった。鋭く睨みつけるつもりだったが、デンマークの瞳が近いところにあって思わずひるんだ。冬の暗さと、春の暖かさが混ざり合ったような雪解けの海の色をした瞳が、自分の怒りなどたやすく飲み込んだ上で包み込みそうな様子でこちらを覗いていたから、乗り出した身を元のシートに収めようと思った。

すると、それを許さないかのように、デンマークの両の腕がスウェーデンをとらえた。

「おめぇいま、何考えでる?」
「・・・っ」

怒りの後にこみ上げてきた感情さえも見透かされそうな気がしたから、スウェーデンは視線を逸らす。

「デン。いいがら離せ」
「言わねんなら、別にいいども」


身をよじるが、力はデンマークの方が上で解放はかなわない。そうこうしているうちに少し乱暴に後ろ頭を掴まれて、見上げた先にはデンマークの顔がある。


「ま、双方同意の下ってことで」


わざわざ口にするなと抗議したかったが、その抗議さえも早く飲み込んでくれないかとも思っていた。
ゆっくりゆっくり波が寄せて帰る音が聞こえていた。