疚しい皮膚









左肩から腕にかけてのラインにそって、すうと手を滑らせた。
雪国で生まれ育った自分とは、肌の色がだいぶ違う。月光がそれをあらわにする。
太陽とは違う曖昧な光がものの輪郭さえもおぼろげにゆがめる。



「のう、孫市、これは一体なんなのだ」
「これ?」
「お前の左腕にある、この花の模様だ」
「ああ、これか」




うつぶせになって敷布に顔をうずめていた孫市が、にやりと笑ってこちらをのぞいた。
ぐるりと身をよじり上向きになると、枕元にひざを折って座ってこちらをのぞく政宗の頬にその無骨な手を添えた。
まだ若い少年の肌は陶器のように滑らかで、髪の毛は猫のように柔らかかった。



「入れ墨だよ。珍しいことでもないだろ」
「別に、珍しくはないが・・・」



政宗は興味深くその入れ墨を見た。ばらの花をかたどったそれは、孫市のうすく焼けた肌によく似合っていた。
一緒に添えられている異国の文字も、彼らしいといえば彼らしかった。

相手をされないことに少しすねて、孫市は伸ばしていた手をおさめた。
それにも気がつかないようで、政宗はじいっと興味深そうに孫市の腕に咲く花を眺めている。



「興味あるのか」
「そんなことは、」
「ないわけでもないだろ」



のどの奥で低く笑って、孫市は体を起こした。政宗と向かい合うようにしてあぐらをかく。
しばらく見つめあっていたが、頬を赤く染めあげた政宗が、ふいと顔をそむけた。




「昔に付き合ってた女が、彫り師だったんだ」




政宗の目が、大きく見開かれた。




「そうか」




せめて言葉は穏やかにしようとしたが、少し声がふるえてしまった。きゅっと、奥歯を噛み締める。









「お前は、俺に何かくれないのか」

「は?」



困ったように眉尻をさげて、孫市は笑った。この表情に弱い。
いつか、この余裕のような表情をくずしてやるのが、政宗の目標だった。今はまだ、無理かもしれないけれど。



孫市の肩にある花に唇を寄せた。少したってから、また離した。
そこだけ少し、赤くなっていた。自分でしたことながら、政宗は恥ずかしくて意図的に視線をずらした。



「そのうち、もっとすごいものをくれてやる」
「そうか、そりゃ楽しみだ」


負け惜しみのように政宗が言うと、かみしめるようにはにかんだ。そしてさらりと孫市が、その花をなでた。
赤いしるしに手がかかるのを見て、政宗は頬を染めた。