「あの、クライブさん、大丈夫・・・ですか・・・?」
子供らしさの抜け切らない顔が、こちらをおそるおそるといった様子で覗き込んできた。大きく見開かれた瞳と対象的に、口は控えめに開かれていて、そこからもれる声はふるえていて、か細い。
クライブの様子を心配するのと同時に、彼に怒られるのではないかという不安が少年の胸中であふれていた。
クライブは大丈夫だと言うかわりに、何度か頷いてみせた。本当は今でも足のすねは鈍く痛かったが、この程度の痛みは我慢できないこともない。うつ伏せに倒れたまま、クライブは痛みでしびれてうまく働かない脳みそで考えていた。
「そうですか。よかったあ」
本当に安心したように、少年は大きく息をついて胸を撫で下ろした。安心しきって、両方の頬がゆるんで放心したような笑顔になっていたが、次の瞬間に庭の木々を割って届いた彼の軍師の怒号にびくりと大きく肩をふるわす。声からすると、軍師はまだ城内を探し回っているらしい。
先ほどから、なんとなくだがクライブには理由が見えてきた。
「リオウ、お前・・・」
目尻にたまった涙を気づかれないようにぬぐってから、クライブは呆れたような顔で少年を見た。ぎくりとしながら、少年は背中を冷たい汗が通っていくのを感じた。緩慢な動作で、頭の後ろをかきながらからからと笑う。
「まあ、なんというか・・・。がんばれよ・・・」
少年はきょろりと瞳を見開かせた。とうのクライブ自身は、そんな少年の仕草に少しびっくりした。率直な感想を述べただけなのだが、何がおかしかったのかわからずに、何回かまぶたをしばたたかせた。
「この場所は見つかりにくいから、何かあったら使うといい」
「あ、ありがとうございます」
彼は、彼が平和ぼけをするくらいに静かな毎日をすごせる平和を少年がくれたことを、彼なりに感謝していた。いまだ痛みつづけるすねは、その平和の確かな証拠なのだ。
「青天に伏す」