花は咲き終わり、枝には若い葉と小鳥が彩りをつける。それらと同じ目線で、わたしは外を見る。以前はしつこいくらい「そこから降りろ」などと言われていたけれど、どうやら無駄だとわかったみたいで今では何も言われない。会話も少ないけれど、彼の邪魔にはなりたくないから、これくらいでちょうどいい。いや、ほんとはもうちょっとおはなししたいなあ、なんていうのは思ってるだけで、言わないだけで・・・。(えへ!)




露呈する 情熱





そこから少し下に視線を持っていくと、営舎の入り口が見える。張遼将軍がちょうど営舎へ入るところのようだ。毅然とした彼の姿には、どんなことをしていても目を引かれる。歩く姿や、いじわるを言って笑う姿に、はっとさせられる。彼のいなくなった入り口をぼんやり眺めていた。





「どうかしたか」
「はい?」
「いや、静かだと思ってな」







皮肉気に彼は笑った。というか、皮肉まで加えた。彼といい、張遼将軍といい、ブラックなジョークを好む傾向がある。それがまるで大人の余裕の象徴のようで、わたしはいつもそれらをまじめに受け取るだけで精一杯だった。




「今、そこに張遼将軍がいまして」
「ほう」
「このあいだ、同じ年頃の知り合いたちが張遼将軍は魅力的だとか言ってたのを思い出したんです。かっこいいですよね」


「そうか」
「はあ」






それからもわたしは再び窓の外を見つめていたし、夏侯惇さんもひたすら筆を動かしていた。通り抜ける風とそれらが揺らす木々の波のような音と、彼の筆が竹簡の上を走るなめらかな音が一定のリズムをとっていて、まるでさっきの会話が意味をもたないものになりかけていることに気づくのが遅れた。







「妬いたりしてくれないんですか」
「いや、妬いているぞ」


平淡な口調だけどもひょっとして、と思って振り向くとやっぱり普段どおりの夏侯惇さん。妬いてるなんて、うそじゃない。何も言わないでそうしていると、思い出したように顔を上げた彼と目が合った。












その目が、何よりも雄弁に彼のおもいを語るから、わたしは思わず言葉を失った。不器用な彼の情熱が、わたしを熱く焦がす。