02 利己的な条件



褒美として与えた偃月刀を、彼女は見事に使いこなしていた。
もともと短戈を扱っていたため、扱い方が似ていたのかもしれない。少しばかりこつを叩き込むと、与えた武器を彼女はしっかりとその手に馴染ませたようだ。

張遼の予備の偃月刀だったため、質もそれなりにいい品だった。彼女のそれまでの獲物と比べると敵との間合いは格段に広くなる。その分、至近距離の攻撃をいなすことは神経を使うかもしれない。しかし彼女は平気だろう。殺気に対する反応は鋭い。何より、その手の弱点を補う戦法はみっちり張遼が叩き込んでいた。



先が楽しみなのだ、死なれては困る。






「調子はどうだ」


馬上から張遼が問うと、彼女は肩までの黒髪をさらりと風におどらせて顔をほころばせた。


「いいです」



そう言って、張遼から授かった偃月刀を胸の前に構えた。張遼もうなずいて、すこしだけ笑った。














単に自分と同じ武器を持たせたかっただけかもしれない。揃いの武器を張遼も片手に構えた。馬首をめぐらし、敵軍団に向かい咆哮する。

ただのエゴだ。戦いの最中、意識だけはさまよっていた。


使い慣れた武器からわざわざ変えさせてまで己の武器を渡し、目の届く範囲で戦わせて、目の前で彼女を失ってしまったらどうするのだろう。思いと裏腹に、張遼は機械的にただ目の前の敵を切りつけていた。生き残る可能性を下げているのは自分ではないのか。