ほうき星に乗って ;;




一仕事終えての一杯は最高だ!

・・・なんて大嘘だ。わたしはお酒があまり得意ではないからだ。
それでも、お酒の力は有難かった。普段はプライドという厚い鎧で身を包むイギリスの身にまとう空気がやわらかくほぐれるからだ。もしくはわたしが強気になっているだけなのかもしれないけれど。





お酒で火照った体に夜の空気は心地よかった。
わたしもお金をもらっている身だし、半分出すよと言ったら、うるせえそんなはした金いるかよさっさと荷物持って下で待ってろ、あ、俺のコート持ってけ、と捲くし立てられ、お会計が終わるまで先に店から追い出された。ちなみにコートは随分乱暴に投げられたので、わたしはそれを顔面で受け止めることになった。
化粧はがれるわ。

手持ち無沙汰に後から来るイギリスを待っていると、酔っている割にはしっかりした足取りで彼が降りてきた。無言で預かっていたコートを渡すと、「ん」と小さく答えてそれを身に着けた。




沈黙が、続く。

結局、どちらともなく「帰ろうか」と切り出し、代行業者に声をかけイギリスの車を目指す。




業者が運転席に座る。

わたしは、イギリスがドアを開け導かれるまま後部座席に。


肝心のイギリスは、助手席のドアを開けかけている。




わたしは理解ができなくて何度かまばたきをしてしまったし、運転席に座る業者もびっくりしている。

紳士的なのは素敵だと思うけれど、その選択はだめだめすぎて落第レベルだと思う。
わたしは思わずかっとなってしまい、彼の名を呼ぶ。



「イギリス!」

彼がこちらを振り向く。
・・・しまった、わたしはこれからどうすると言うんだ。
彼にどうしてほしいかしっかり思ってはいるが、それを口に出すのはとても恥ずかしい。


「あ、えと・・、後ろ、座らない? い、いっしょに・・・」




女性に恥をかかせるなよ! と心中では強気だったが、恥ずかしくてわたしはうつむいてしまった。
助手席のドアを閉める衝撃に続いて、後部座席のドアを開いてイギリスの声が降ってくる。


「それじゃ、失礼するぞ・・・」

遠慮がちにつむがれる声がやけにくすぐったくて、わたしは終始うつむいていた。







ヘッドライトが光の泡みたいに流れていく夜の道路に、私たちを乗せた車も混ざってゆく。