終わりの始まり ;;




家に着いて真っ先にソファを目指した。自分の重みの分だけ沈む。それに応じて自分の意識もどこか暗い深いところに沈んでいくような気がする。


、どんなに疲れていても化粧は落として寝なさい」

自分以外の重みでさらにソファが沈んだ。どうやら重みの正体はフランスらしい。
無視して眠ることもできたけれど、なんとか意識を引き戻し、回答をうまく回らない頭で考える。
ただ体がとても眠りたがっているから、きっとすごく不機嫌な顔をしているんだろう。顔中の筋肉がきゅっと顔の真ん中めがけてしわを作っている。ああ、我ながらとっても不細工じゃない。


「ん、今日はもう動けない・・・」
「ちょっとだけ待ってなさい。スーツがしわになるといけないから、がんばってそれだけ脱げるかい?」
「わかった」

ぱたぱたとスリッパの足音が遠くに消えていく。言われたとおり身をよじりなんとかジャケットを脱いで、床に置くよりはまだましだろうとソファのへりにそれをかけた。
再び足音が近づいてくると、うつ伏せのわたしの体に腕を通し、ぐるりと回転させた。

顔を冷たいコットンがすべっていく。フランスが丁寧な手つきで化粧を落としていく。皮膚が呼吸をはじめると、一層リラックスできる。
ダブル洗顔の必要はないし、潤いたっぷりだから化粧水も必要ないんだよ、とフランスが言う。



「便利な世の中だね」
「最近の帰りが遅かったから、あると便利だと思ってね。買って正解だった」
「そっか。ありがとう」


なんとか重たいまぶたを押し上げると、眩しいような表情をしているフランスがそこにいた。
目が合うとふっと力を抜いて、やさしく微笑む。



「このまま寝ちゃうと風邪ひいちゃうぜ。ベッドまで動けるかい?」

頭を左右に振ると、しょうがないとでも言うようにふっと笑い飛ばしてわたしの体ごと持ち上げる。
フランスの首に腕を回すとあやすように頭をぽんぽんと撫でられる。


優しくベッドに下ろされる。覆いかぶさるフランスの顔を見やると、何か言いたげにしていたけれど、観念したように少し長めの口付けをしてから低めの声で「おやすみ」と言うとリビングに向かって歩いていく。




「フランス。土曜日になったらどこかに行こうね」
「ああ、楽しみにしてるよ。だから、まずはゆっくりおやすみ」



おやすみ。うまく声に出せたか分からないくらい、まどろんでいた。
こうして一日の終わりを迎える。フランスと約束をした土曜日までは、あと2日。