乱鴉 ;; ひらり、机からすべり落ちた書類をのぞくと、そこにはペンで引っ掻き回したような跡が残っている。 つまり、イギリスが文字のような何かを記しているということだ。 「落ちたよ。ていうか、これ、全然読めないんだけど」 以前から彼の字の汚さを指摘して、どうしようもない人、と笑っていた。今回たまたま拾い上げた書類はわたしにとって久々の格好のえさであり、すかさず彼に声高に指摘をする。 彼に書類を見せ付けるように、目の前でちらちらとさせる。 すると、素早くそれをわたしから奪い去り、顔を真っ赤にして怒鳴るようにして彼は言った。 「みたいな阿呆には読めねえんだよ!」 阿呆阿呆繰り返し呪詛のように唱えて、足早に部屋を出て行った。 遠ざかる足音を聞きながら、わたしは呆然とドアを眺めることしかできなかった。 昨日見た渡り鳥の群れの方がよっぽど整っていると思う。 2人きりの時は、わたしが字の汚さを指摘しても怒らないで、むしろ「待て。これじゃ読めないから書き直す」みたいに先回りで優しくしてくれたのに。 機嫌1つでよくわからない人。 子どもじゃないのだから、と口では言うものの、不完全な部分が愛しいというのだから、わたしもよっぽど捻くれている。 困ったようにアメリカの方を向くと、彼もやれやれとジェスチャーで示す。 「彼はきみに甘えすぎじゃないか?」 「そうかな。アメリカにはそう見えるの?」 「きみは彼が逃げたことによって、その理由を聞けないだろうから、代わりに俺が教えてあげるよ」 「え、知ってるの」 そうさ、と答えるアメリカの声はいつもの如くきらきらとしている。 けれども、イギリスの秘密を暴こうとしているのだから、やっていることはヒーローとは真逆だな、としみじみ思っていた。 「あれは、彼の手帳の一部なんだよ。『夜景が見たい』とか『チョコレートがすき』とか書いてあった」 彼とは付き合いが長いからなんとか解読できたよ、と誇らしげにアメリカが言う。 その後、少し雰囲気を変えてじっとわたしを覗き込む。 「・・・なにか、気づいたことはないかい?」 「うん。すぐにわかった」 恥ずかしくて、わたしは思わず顔を両手で覆った。 だってそれらは全部、わたしが言った何気ないけれどわたしにとって大事なことだったから。 |