うさぎのしっぽ




暇なとき何してるの、と聞かれると大抵は正直に「寝てる」と答えていた。そんなわたしを不憫に思った親切な方からパーティのお誘いがあった。ホームパーティがあるらしいから楽しくやろう、衣装はこちらで用意しておくから、と言われたので当日会場へ着いてわたしは驚愕した。


「仮装パーティですか」
「そうよ」

鈴が転がったような笑い声を上げて、ハンガリーは用意してある衣装とやらをへ渡すべく奥の部屋へと通した。


「似合うと思うの」

そう言って渡された衣装を断る勇気はわたしにはなかった。彼女の気迫に気圧されてだ。普段のわたしならば絶対に縁のないような衣装だ。








ピンヒールを履いて歩くことに慣れていないわたしはなんとか会場の壁際へとたどり着いた。ウエイターが重なるように並ぶ大勢の人を滑らかに避けて、手ぶらのわたしにシャンパンのグラスを手渡す。お礼を言うとかしこまって礼をし、再び人の群れへ飛び込んだ。

細身のグラスを少し傾けシャンパンをあおる。いつも自分が嗜むアルコール類よりも濃度が高いと、飲む度いつも思う。とはいえ、こんなふざけた場で自分だけ冷静でいることも馬鹿らしい。喉を鳴らしてぐっと飲むこむとふうっと気持ちが軽くなる。先ほどの人とは違うウエイターが空いたグラスと新しいシャンパンを交換してくれた。



いつの間にか背後から近づいてきた男が、唇を尖らせ口でクラクションの音を真似た。


「イギリス・・・!」
「よう、。いい格好じゃねぇか」

いい具合にアルコールが回っているのだろう。笑った顔が心底不気味だ。


「一晩いくらだ?」
「うるさいわよ・・・」


自分で立っていることに疲れてきて、わたしは腕を組み体重を壁へとあずけた。


「その格好はてめえの趣味か」
「これは、ハンガリーさんが用意してくれて」
「はっ、こりゃハンガリーもいい仕事したな」


上から下までじろじろと見られてわたしは居心地が悪い。満足そうににやけるイギリスの顔を見たくなかったので、わたしはそっと顔をそらして俯いた。
すると、頭上からぴょこりと生えた耳がずるりと下がってくる。

「おいバニーガール。お耳が取れそうですが」
「・・・うるさい」


カチューシャから耳が生えているそれを付け直し、観念してわたしは視線を水平に保つことにした。
会場の女性は皆日中には似つかわしくない格好をしている。男性は十字が目に付くような格好だ。


「女性は娼婦、男性は聖職者、ね・・・」

テーマの決まっている仮装パーティだという。こういうことが楽しいと感じられないのは、感覚の違いとでもいうのだろうか。イギリスが再びわたしの衣装のしっぽの部分をぎゅっと握ると、クラクションのまねをした。


「バニーさん。私は神に仕える身だというのに、あなたの淫らな姿にこんなにも心を乱されています。一体どうしたらいいのでしょうか」
「そんなに言うほど嫌らしくはないです。あなたの頭が沸いているからではないでしょうか」
「んだと」

イギリスの手のひらがわたしのわき腹を撫でる。触れるか触れないかの力加減に思わず身をよじる。


「ああ。なんて可愛い声で鳴くうさぎなんでしょう」
「・・・イギリスの馬鹿」


羞恥でぼっと顔に火がともる。してやったりとした顔のイギリスが、耳元で囁く。


「お前、最高にいやらしいよ」