1.付き合って、3秒





周りが精悍な大人だらけだったから、その少年の姿はとても浮いていた。わたしも彼とそう変わらない歳に見えるだろうから、同じように浮いているだろう。
騎士団という集団の中で生活をしている。彼のすごいところは、大人たちに混ざって戦場へ赴くことだ。
わたしだって毎日の鍛錬は欠かさないが、とてもじゃないけれど戦場では使い物にはならない。鍛錬をし、鎧や馬具の金具を磨いたり厨房で手伝ったり買出しに行ったりしていた。

買出しから帰って荷物をおろし、厨房へ行く途中、例の少年に声をかけられた。

「おい」

その時、はじめて気がついたのだけれど、わたしは彼の名前を知らなかった。口をきくのもはじめてだった。偉そうにして上からわたしを見るようにして言った。


「お前、なんだ?」

実に的を射ている質問だと思った。無駄を省いて核心を突く。


「俺は、ギルベルト・バイルシュミットだ」

はぐらかすように養い親のつけてくれた名前を答えた。すると彼も自分の名前を告げる。ギルベルト・バイルシュミット。はじめて知った。何度もすれ違う程度に顔を合わせていたのに、こうして聞いてしまえばほんの数秒だった。



「わたし、ファミリーネームないの。森にいたところをこの騎士団の人に拾われて、とてもやさしくしてもらった」
「・・・そいつの名前は?」
「もう、死んでしまった」


そっと名前を耳打つと、ギルベルトはすぐに誰か分かったみたいで、わたしの頭を手のひらでぽんっと叩くみたいにして撫でた。

「お前、いいやつに拾われたな。強くて、いいやつだった」
「うん」



ギルベルトは力強く肯定してくれた。そこには悲しさは含まれていなかった。飾らない言葉がストレートに胸に響いた。養い親に似ていると思った。
はじめは得体の知れないわたしを探るように近づいてきたギルベルトだったけれど、わたしに悪意はないのだと気づくと雰囲気をやわらかくしてくれた。