優しい色をした愛





     と 視線を感じた。

みんなが集まる会議に出席させてもらっているけれど、あくまでわたしは補佐としてであって、他の人たちのように国の代表としてではなかった。
議事録を作成するときは後でレコーダーから起こすけれども、この場の雰囲気を感じながら要点を書き残しておけば後々楽だろうと辺りを見回しながら目の前のノートに単語をぽつぽつと記していた。
熱心な訳ではないが、発言をするわけでもないため会議中に手持ち不沙汰になってしまうのをどうにかしたくて、自分にできることを探していた。



会議は会議でいつもの如く主題からそれた所で大盛り上がりしていた。収拾のつかない応酬を横目に眺め、時折飛び出す重要そうな単語に注意してあたりを見回していると、かちり、わたしに向けられた視線をとらえた。
そんなわけないよな、と即座に切り離して再度会場中を見渡す。気のせいと思えば、自意識の過剰さを自分に言い訳できる。事実、端まで巡らせた視線を戻しながらそちらを見たら暖かい海の色をした瞳はわたしを映してはいなかった。
やっぱり、気のせいだったな。意識を発言者に集中させる。しかし、相変わらず脱線しまくりだった。



どうしてその視線を感じるのだろうか。まるでわたしの皮膚がそれをぴたりと吸い取っていて、伝えているみたいだった。長方形に並べた机の端にいるわたしに、隣の辺の端に座っているスウェーデンさんの視線がじっとそそがれていた。
気のせいではなかったんだ、とわかると気持ちが落ち着かなかった。会議に集中しようにも何度も顔を上げる度にスウェーデンの顔がこちらを向いていて、も同じようにスウェーデンの顔をじっと見つめた。

まじめな顔でこちらを向いているので、てっきり会議に関する何かだと思った。足りないものがあるのか、不備があるのか。手元のノートにさっとペンを走らせ、ちぎり、スウェーデンの前に差し出した。



『何か、ありますか?』


対するスウェーデンは左右に首を緩慢に振って答えた。


「なもねぇ」

自分のとなりから響く低音には驚いて息の飲み込んだ。会議中に話しかけられパニックになっていたが、誰からも咎められなかったのでひとまずほっと胸をなでおろす。
「何もない」ということだったが、いまだ彼の瞳はわたしを映している。




断ち切るようにノートに覆いかぶさるが、不思議なことにわたしの頭頂部および後頭部および背中は、やっぱりその視線に敏感だった。
顔を上げ、同じようにスウェーデンの顔をじっと見ると、始めのうちは向こうも驚いたような顔をしていたが、やがて元のまじめな表情に戻る。

観念してわたしが吹き出すと、表情の変化に乏しいスウェーデンもふーっと深い息を吐くようにして吹き出していた。言葉を交わすわけでないのにふわりと胸を軽くする心地よさに、つい同じように向き合っては吹き出すということを繰り返していた。






、そんだにがんばる程の会議でもねぇべ」

ノートを見てスウェーデンがつぶやく。そんなことないですよ、と一応返すとにやりと笑っていた。


「んでも、いつもご苦労だなぃ」
「とんでもない!」


どん、と胸を叩いてふんぞり返ってみせると、どうしようもないと言って見守るような視線でスウェーデンが微笑む。




もっと見つめていてほしい、と欲が出てしまったので、蓋をしてそっとしまいこんだ。