2.泣き虫コンチェルト





悔しさはわたしのなかで渦巻いていた。はじかれた剣は地面に打ち付けられ、土ぼこりにまみれている。わたしは立ち上がることもできずに、剣と同じように土ぼこりにまみれていた。


「おい、

遠くから聞こえたように感じたが、ギルベルトの顔は目の前にあった。太陽の下で見ると彼の赤い瞳がよりきれいだった。


「立てない・・・」
「お前いますっげー不細工だぜ」
「なん、だと・・・。だが、立てない」
「ふざけてる場合かよ」

悔しさをごまかすためにおどけて見せたが、彼にはたやすく看破されているだろう。甘えるようなかわいさは持ち合わせていなかったから、肩を並べられるようになりたかった。


差し出された手につかまるのを躊躇っていたら、無理矢理上体を起こされ地べたに座らされた。となりにギルベルトもしゃがみこむ。手のひらでわたしの髪や衣服についた汚れをはらってくれる。


「腹減ったなあ。今日の晩メシなんだろうな」
「あったかいスープがいい」
「冷める前に食堂行こうぜ」

最後に顔についた泥や汚れを繊細な手つきではらうと、すっくと立ち上がり食堂に視線を向ける。


「じゃあ俺、少しでも大きいブレッド確保するために先に行ってるから。お前の分も取っといてやるから、また後でな」
「ありがとう」

駆けていく彼の足音が小さくなるのを確認して、わたしは唇を噛んだ。痛みを堪えるようにぎゅうっと目を瞑る。あんなに丁寧にはらってくれたのに、目に砂が入ってしまったようだった。
ギルベルトはわたしに「やめろ」とは決して言わない。もっと強くなりたい。彼に心配されないぐらい強くなりたい。わたしは彼のやさしさや面倒見のよさに付け入っているのだ。彼が本当に辛くて、どうしようもなくて、泣いて喚いてすがりつきたくても、頼ろうとするのはわたしではないのだろう。彼の態度そのまま彼の方がわたしよりもずっと上にいるのだ。強くなりたかった。

そしたら、彼のとなりで同じ時間をすごすことに負い目を感じないで済むような気がした。