5.眼前の攻防 剣を水平に構えると切っ先は点でしかとらえることができない。つまり、見失いやすいということだ。ひざを曲げて構えるのは、少しでも早く次の動作に移れるように。 勝利条件は、いかに早く相手に一撃を食らわすことができるか。 ギルベルトの「始め」の声に合わせて、わたしとアントーニョは互いに剣を振るう。案の定、一撃目は互いの攻撃が読めていたのか刀身同士がぶつかり合った。 わたしの片方の腕1つでも自由に振り回せるほど刀身は細く軽い。切ることよりも突くことに特化しているので、鍔競り合うことよりもいなすことを得意としている。そして、わたし自身も。パーリングはギルベルトのお墨付きだったので、わたしは密かにそれをわたしの強みとして心の支えにしていた。 打ち合いながらアントーニョの攻撃をうまくいなすと、彼はとても驚いていた。ただ、こちらに隙は与えてくれず、未だ膠着した状態が続いている。 決着をつけるべく互いに大きく構える。外すと大きいが、ここが勝負時だとふんでいた。わたしの剣はただ空を切った。同じようにアントーニョも空を切る。ただ、今度はわたしが驚かされる番だった。 わたしの大降りの一撃は上から下に振り下ろすようにして繰り出すが、アントーニョは斜め上からそのまま斜め下へと振り下ろされる。この違いは、わたしが勢いのまま正面に突っ込んでいってもアントーニョの体はそこにはなく、むしろわたしの意識の外である斜め方向に抜けた彼からは隙をついた絶好の一撃を食らわす機会へとつながる。慌てて振り向き、構える。 「そこまで」 ギルベルトがわたし達の間に入って試合の幕を引いた。結局、ギルベルトはわたしなんかが及びもしないレベルなわけだ。まだまだ世界は広い。アントーニョも息一つ乱さずにへらへらと笑っていた。彼は普段もっと重い得物を扱うと聞いている。 |