スピネルの灯台






その長い髪が鬱陶しいと言った。汗ばんだ素肌にまとわりついて、気が散ると。
アッシュはいつもみたいに何か言い返していたが、俺はそれをまともに取り合ったことはない。



あいつが何かを求めるように伸ばしてくる手を何度打ち払っただろう。自分の暗い気持ちを払拭させるかのように、アッシュに辛くあたった。それでもまだ俺にすがる気持ちがわからなかった。俺はあいつに対していらいらとした気持ちしか呼び起こされないというのに。








夜中に目が覚めて、目の前にアッシュの後姿があった。というより後頭部があった。深い炎の色の髪が夜の中で燃えていたので、思わず、手が伸びた。

辛くあたるのが常だが、気まぐれにやさしくすることもある。



きちんと手入れがされているはずなのに毛先が散ってしまうルークとは違って、アッシュのそれは特別な手入れなんてしていないはずなのにするすると指の間をすり抜けていってしまうなめらかさだった。何度か竪琴を奏でるみたいにすくい上げる。
腕のなかにアッシュの体を包み込んで、鼻先を長い髪にうずめた。お互い出会った頃より成長したが、年齢の差があるからか、まだ幾分自分の体の方が大きかった。すっぽりと腕の中に収まったアッシュの体がいくらか緊張していて、寝たふりしてるんだろうことが分かった。
耳の後ろや首筋に熱く息を吐きかけると、耐えかねて声が上がった。

「・・・んっ、ガ、イ!」


馬鹿なやつ。俺を出し抜こうとかいう考えを持つことが甘い。全ての行動が俺の想像の範疇内であるというのに、悔しそうに反応する様を眺めるのが、楽しいと言えないこともない。むしろ予定調和な事象に付き合ってやっているのだから、それくらいの見返りを求めても構わないだろ。

腕の中で窮屈そうに少しずつ向きを変えてようやくこちらをとらえると、普段は几帳面に撫で付けている前髪がばらばらと零れ落ちる隙間から鋭くこちらを睨み付けていた。こいつは、ほとんどこの表情だけだ。そしてこいつに対する俺の表情も同様だ。
険しい顔つきで同じベッドで横になる俺たちは、一体なんなんだろう。



反抗的な態度が気に食わなかったので、腕の位置をずらしてわき腹の弱い部分を撫で上げた。 アッシュはぎゅっと目をつむって顔を赤くし、声を上げないように堪えて鼻先から息を吐いた。下ろした前髪や表情がいつもよりアッシュを子供っぽく見せていた。







ルークと顔が同じなのだろうが、俺には全く違って見える。親ばかのそれなのか、アッシュが特別なのか。
考えるのが馬鹿らしくなって瞳を閉じると、アッシュからもおずおずと手を伸ばしてきたので、たまにはいいのかもしれないと気まぐれにそれを許した。