クライブは、城の北側にある庭がすきだった。

庭と呼べるほど華やかでもないが、城の敷地内にある自然のある空間を庭と呼ぶのなら、そこも庭に違いなかった。
城は南に向いて構えているから北側の庭はつねに日陰になっていて、その上ならんで生えている広葉樹が、さらにその影を濃くしていた。地面はシダ植物で覆われていて、彼のブーツが作った跡がやわらかく陥没していた。


近くにあった木の根元にクライブは腰をおろした。首を横にスライドさせると、湖が展望できる。彼は初期からこの城にいて、この場所にも何度か訪れていたが、この眺めにはたった今、初めて気がついた。弱い風が吹いていて、その風に合わせて水面がゆれると、日の光もそれに合わせてきらきらとゆらめいていた。

風に合わせて枝葉もかさかさとゆれる。何気なく上を向いた彼は、葉と葉の隙間から見た空にも、初めて見るような感じを受けた。空なんて見飽きているような感じなのに、その日の空はいつもとは違っていた。彼は、うすい水色の空を目を細めながら見ていたから、遠くの方で聞こえる怒声や、それから必死に逃げる足音になんて気がつくはずもなかった。





「うわっ」


空を見上げていた彼が現実に引き戻されたのは、目の前の(たった今、転んだであろう)城主の少年の上げた頓狂な声のせいではなく、その少年が勢いよく蹴り出した右足と、座っている彼の投げ出された左足が激突したからだった。不幸にも、少年のブーツのへりの部分が、彼のすねを思い切り蹴り上げたものだから、次の瞬間には足を抱えて固まる青年と、少し離れたとなりで同じように転んだまま身を丸くする少年が固まる異様な光景が広がっていた。




遠くで軍師が少年の名前を呼んでいたから、クライブはすべてを悟った。